ボーダーコリーの歴史と起源|“世界一賢い牧羊犬”が生まれるまで

歴史的なボーダーコリーの古い写真.

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ボーダーコリーは、イングランドとスコットランドの国境(ボーダー)地帯で、「羊を動かす能力」だけを頼りに磨かれてきた牧羊犬です。見た目の美しさよりも、賢さ・スタミナ・判断力――つまり“仕事ができること”を基準に、何世紀もかけて選ばれ続けてきました。この成り立ちを知ると、なぜこの犬がこれほど賢く、なぜ毎日の運動と「頭を使う時間」「飼い主となにかをする時間」を必要とするのかが、すっと腑に落ちます。

当犬舎では世界各国からボーダーコリーの血統を迎えてきましたが、国や血統が違っても共通して感じるのは、「働くために作られてきた犬」だという芯の強さです。歴史は、いまこの犬種と暮らすうえでの“取扱説明書”でもあります。この記事では、ボーダーコリーがどこで生まれ、どうして「世界一賢い」と呼ばれるようになったのかを、出典をたどりながらブリーダーの視点もまとめてお話しします。

若いボーダーコリー犬が芝生の上で遊んでいる.
JKC.CH. YUSHA JP’S GLORIOUS SUNSHINE “PARIS”

ボーダーコリーはどこで生まれた?──国境地帯の牧羊犬

ボーダーコリーのルーツは、イングランド北部とスコットランドの境、いわゆる「ボーダー地方」にあります。起伏のある寒冷な牧草地で羊を追うために、何世紀にもわたって牧羊犬が育てられてきました。厳しい地形と気候は、長時間走り続けるスタミナと、群れを読んで動く判断力を犬に求めます。いまのボーダーコリーが持つ運動欲求と賢さは、この風土が育てたものだと言えます。

「コリー(collie)」という言葉の由来には諸説あります。被毛の黒さを指す古い方言”coaly(石炭のような)”に由来するという説や、ゲール語で「役に立つもの」を意味したという説が知られています。いずれにせよ17世紀半ばには、スコットランドの牧羊犬を指す言葉として使われていました。そこに発祥地である“Border(国境)”が重なり、そのまま犬種名になったのです。

羊の群れとボーダーコリー犬が牧場で作業中.
神奈川県の服部牧場にて。ここではボーダーコリー限定でシープドッグの経験ができます。

すべては一頭から──近代ボーダーコリーの父「オールド・ヘンプ」

現在のボーダーコリーを血統をたどっていくと、一頭のオス犬に行き着きます。1893年9月、イングランドのノーザンバーランドで生まれたオールド・ヘンプ(Old Hemp)です。羊飼いでもあり、ブリーダーでもあるアダム・テルファーが、父ロイと母メグから生み出した犬でした。

オールドヘンプはミディアムコートのトライカラーの毛色をしていたとの記載があります。

歴史的なボーダーコリーの古い写真.
実際の残されているオールドヘンプの写真。歴史的な姿を伝える貴重な一枚です。.
黒と白の毛色のボーダーコリー犬の全身写真.
こちらはAIにカラーにしてもらいました。このような感じだったのかな?と思います。

~オールドヘンプの作業スタイル~

ヘンプの物語の面白いところ(ブリーダー目線ですが)は、その両親のあまりに対照的な気質にあります。父ロイは「気立てが良すぎる(too good-natured)」犬で、ルーズアイ(弱い視線)の持ち主であり、牧羊への特別な才を欠いていました。つまり性格は申し分ないが、仕事犬としては凡庸でした。一方、母メグは黒毛で、極めて強い「アイ(Eye=目)」を持つ働き者だったが、その集中力が度を超していたそうです。記述に繰り返し登場する有名な描写によれば、メグは羊に集中するあまり「羊ではなく自分自身を催眠にかけてしまう(hypnotised herself rather than the sheep)」ほどと記載されていました。これは、強すぎるアイが実用上はかえって障害になりうる——犬が固まって動けなくなる「スティッキー(sticky)」な状態——という牧羊犬育種の根本問題を、一頭の母犬の姿として鮮やかに示してます。

ヘンプはこの両者の長所——父からの扱いやすい気質、母からの強烈なアイと集中力——だけを受け継ぎ、それぞれの短所(父の凡庸さ、母の過剰さ)を排した、まさに「遺伝の当たり(a fortunate genetic outcome)」だったと言えるかと思います。

~生まれながらの天才ヘンプ~

ヘンプの非凡さを示す逸話として最もよく引用されるのが、彼が訓練をほとんど必要としなかったという点です。Eric Halsallは、ヘンプが「自分の技について生まれつき知識を持って生まれてきたため、特別な訓練を一切必要とせず、ごく自然に仕事へと入っていった(he was born with such knowledge of his craft that he never required training and went to his work naturally)」と記しています。さらにヘンプは、わずか生後6週で羊を追い始めたとも伝えられています。これは通常の牧羊犬がより長い訓練期間を要するのと比べて驚異的で、彼の能力が学習されたものではなく生得的なものだったことを象徴しています。

素晴らしい、完璧な集中力も多いに称賛されてきました。

作業中のヘンプは、吠えず・噛まず、体の位置取りと強い「アイ(Eye=目)」だけで羊を静かに制御しました。激しく集中するときには体が震えるほどだったと言われていますが、興味深いのは、その張り詰めた静けさに羊の側がむしろ容易に反応したという点です。荒い犬が羊をパニックさせて散らすのに対し、ヘンプの静かな圧力は羊を落ち着いたまま意図した方向へ動かしたそうです。この「犬が静かであるほど羊がよく動く」という逆説こそが、現代ボーダーコリーのハーディング哲学の核であり、それを最初に体現したのがオールドヘンプでした。

この洗練されたスタイルが「理想の牧羊犬」として広まり、数世代のうちに標準になっていきます。ヘンプは生涯で200頭以上もの子を残したとされ、現代のボーダーコリーはほぼ全頭が彼の血を引くとも言われています。
ちなみに豆知識ですが、今(2026年)のボーダーたちはだいたいオールドヘンプから38~42代目の子たちの様です。我が家のボーダーコリー第1号のゆめ(2012年生まれ)の血統を遡ったところ、35代目であることが分かりました。

たった一頭の優れた気質と能力が、犬種全体の方向を決めてしまう――これは繁殖の現場に立っていると、いまでも強く実感することです。だからこそYUSHAでは、どの親犬を迎え、どう組み合わせるのかを慎重に考えるべきだと思っています。

笑顔のボーダーコリー犬、緑の芝生の背景.
YUSHA第一号の「ゆめ」。ゆめがたった生後3か月半の時に羊を上手にひとりでハーディングした姿に感動したのを今でも忘れられません。

トライアルと「ボーダーコリー」という名前の誕生

牧羊犬の能力を競う「シープドッグ・トライアル(牧羊犬競技会)」は、記録に残る最初のものが1873年、ウェールズで開かれました。犬たちは姿かたちではなく、羊をいかに正確に、静かに動かせるかで評価される競技会です。1906年には国際牧羊犬協会(ISDS)が設立され、「牧夫の犬を改良する」という目的のもと、能力で犬を選び、登録していく文化が根づいていきました。

「ボーダーコリー」という名前が生まれたのも、この流れの中です。1915年、ISDSの書記を務めていたジェームズ・リードが、ショーで姿を競うようになっていた「コリー」(ラフコリーやシェルティ)と、能力で選ばれる使役犬とを区別するために、初めて”Border Collie”という呼び名を使いました。つまりボーダーコリーは、「見た目」だけではなく「働き」によって定義された犬種なのです。この出発点は、この犬種を理解するうえで欠かせないポイントだと感じています。


「外見」か「能力」か──ショーと使役の分かれ道

19世紀後半、ヴィクトリア女王がスコットランドのバルモラル城でコリーに魅了され、寵愛したことで、コリーは一躍人気の犬種になりました。その一方で、犬を「姿の美しさ」で競うドッグショーが広がり、外見を標準化していく系統と、あくまで「働く能力」を守る系統とに、コリーたちは少しずつ分かれていきます。ボーダーコリーは後者――能力本位の道を歩んだ犬種です

この「能力か、外見か」というテーマは、その後も長く続きました。ボーダーコリーが英国ケネルクラブに公認されたのは1976年、アメリカのAKCにいたっては1995年のことです。AKCの公認の際には、「ショー(外見の評価)を重視すると、せっかくの作業能力が失われてしまうのではないか」という、使役犬の愛好家、特にシープドッグトライアルに関わる方からの反対の声もありました。

牧羊犬と羊の群れが広い牧草地で遊んでいる様子.
アメリカから輸入した”Muffin”の父犬。ショーチャンピオン血統でありながらも牧羊犬のトレーニングも取り入れている

「能力か外見か」

現在日本においても「フィールド系(能力重視)」や「ショータイプ(見た目重視)」と分けて表記されること多くあります。

私が個人的に思うことは能力重視であっても外観重視であっても、極端にどちらかを重んじてどちらかを捨てることはいけないと思っています。良い骨格やムーブメントなく、良い作業犬にはなれないですし、外観重視すぎて本来のボーダーコリーの輝かしい「能力」という目的を見失ってしまうのも、本来のボーダーコリーの歴史を重視していないということになります。

私が感銘を受けた80年代の長年ボーダーコリーに携わってきたカーペンダー夫人の言葉です。

「牧羊犬が、外見や体格構成にはまったく注意を払わず、ただ作業能力だけを目的として繁殖されてきた、と述べるのは誤りです。醜いワーキング・コリーを見ることはめったになく、ましてや体格構成の悪い犬を見ることはさらにまれです。農場で懸命に働く犬たちは、もし体の造りが悪ければ、何年にもわたる家畜仕事に耐えることなどできなかったでしょう。

……ショーがこれらの美しい犬を作り出したのではありません。彼らは、実践的な羊飼いたちによる、長年にわたる慎重な繁殖の産物なのです。その多くは、犬たちの血統を注意深く研究してきました。……現在、ショー愛好家たちは、この過去の経験の恩恵を受けているのです。

ボーダー・コリーの名高い品質は、これまで100年以上そうであったように、これからも作業能力によって評価され続けなければなりません。単に美しい外見や、ショーリングでの成功だけで判断されるべきではありません。

ボーダー・コリーが今日これほど高く評価されているのは、牧畜の仕事を最高水準で成し遂げてきた、その純粋な実力によるものです

— E. B.(バーバラ)カーペンター夫人(Brocken Border Colliesブリーダー)1986年4月

YUSHAは、この歴史的なテーマに対する立ち位置を大切にしています。当犬舎もドッグショーに出陳しますが、それは「タイトルそのものを追うため」だけではありません。自分たちのブリーディングが正しい方向に進んでいるかを第三者の目で客観的に評価していただき、良い血統を未来へ残すためだと考えています。心身ともに健全であること――歴史が守ってきた”能力本位”の精神を、私たちなりに受け継いでいるつもりです。アメリカ、アイスランド、オーストラリアなど世界各国から、気質と健康に優れた血統を迎えてきたのも、同じ理由からです。

女性と複数のボーダーコリー犬の屋外写真.
Brocken Border Colliesのカーペンター夫人とボーダーたち @BorderCollieMuseum.org

歴史が育てた「賢さ」と、現代の暮らし方

ボーダーコリーが「世界一賢い犬」と呼ばれるのには、根拠があります。心理学者スタンレー・コレンが1994年に発表した著書『The Intelligence of Dogs(犬の知能)』で、作業・服従知能のランキング第1位に選ばれたのがボーダーコリーでした。新しいコマンドを5回未満の反復で覚え、最初の指示に95%以上の確率で従う、という評価です。なかには1,000を超える単語を覚えた個体の研究報告もあるほどです。

ただ、この賢さは「仕事を求める頭脳」であることを忘れてはいけません。何世代にもわたって”考えて働く”ことを期待されてきた犬なので、体を動かすだけでなく、頭を使う時間が足りないと、有り余る能力が別の方向(いたずらや問題行動)へ向かってしまうことがあります。歴史的な成り立ちが、そのまま飼育上のポイントになっているのです。

実際にお迎えされたご家族からも、その賢さを実感するお声をよくいただきます。あるオーナー様は、初めてのボーダーコリーで心配も多かったけれど「ちゃんと教えてあげれば、何でもすぐに覚えてくれる」と話してくださいました。歴史が育てた学習能力は、正しく向き合えば、暮らしの大きな喜びになります。

フリスビーを咥えるボーダーコリーの子犬の写真.

歴史を大切にしつつ、家庭犬でもあることへの想い~YUSHAが目指すタイプ

ボーダーコリーの歴史は、そのままこの犬種の”設計図”です。国境地帯で羊を動かすために、賢さとスタミナと集中力を磨き上げてきた――世界一の牧羊犬です。

YUSHA KENNELは、2012年に一頭のボーダーコリー「ゆめ」と出会ったことから始まりました(犬舎名の”勇者(YUSHA)”も、この子の名前が由来になっています)。長い歴史が育ててきた気質と能力を次の世代へつないでいくために、世界の血統と、健康・性格を何より大切に繁殖を続けています。

ただ、実際お譲りするご家族には「牧羊犬」としてお譲りすることはほぼありません。

一日中、牧場を走っていられる環境はほぼほぼ無いと思います。そのなかで、歴史的な賢い気質を重視しつつ「オンとオフがはっきりしていて家庭のなかではゆったりと過ごせる子。外ではおもいっきり飼い主と楽しめるタイプ。なによりも飼い主に忠実でやる気に満ちている」が当犬舎の理想とする姿です。


最後に

ボーダーコリーは、迎えてから十数年をともに歩むパートナーです。その背景にある歴史まで知ったうえで選んでいただくことが、ご家族にとっても犬にとっても、いちばん幸せな出会いにつながると考えています。何か気になることがあれば、見学の際にいつでもお尋ねください。

ボーダーコリーのお話しをもっとできることを楽しみにしています。

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飼い主とボーダーコリーが夕暮れ時に散歩している.
YUSHA JP’S DELIGHTFUL DREAM “Eden”

YUSHA KENNEL ブリーダー 倉臼華(Hannah Klaus)

2026年7月

主な参考・出典: American Kennel Club(AKC)/ International Sheep Dog Society(ISDS)/ The Kennel Club(英)/ FCI・JKC 犬種標準/ Stanley Coren『The Intelligence of Dogs』(1994) /BorderCollieMuseum.org ほか

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